おまえどこ中?

最終学歴 オールフィクション

おいしい

目が覚めた。

時計を見ると朝の5時だった。カーテンの向こうはすこし明るかった。めちゃめちゃ眠かったのでもう一度寝た。

また目が覚めた。体が異常に怠い。ふと左腕の切り傷が目に入った。記憶にない。そもそも眠りにつくまでの記憶が全くない。嫌な予感がしたので、アイフォンを手にとってツイッターやらラインやらを隅から隅まで見た。絶望した。ツイッターにはこの家はアウシュビッツと投稿されていた。交際相手に意味不明な返事をしていた。一瞬で自殺したくなった。

居間に行った。弟が居間のテレビでゲームをしていて、朝の挨拶をした。弟の返事がいつもと雰囲気が違うので、昨日なんかあったかと聞いたところ、すごかったよと言われた。根掘り葉掘り聞いたら、点と点ながら思い出してきた。以下、弟の証言と記憶を辿った平成29年7月23日から24日についての日記です。

 

昼間から夜の20時くらいまで家族四人で母親の希望でららぽーとへ行っていた。とても疲れていたので、家へ着いたらすぐに寝ようと思っていました。家について居間で、すこしうたた寝をしたら元気になったので、買ってきた新生姜をひたすら刻んでタッパーいっぱいの生姜酢を作りました。新生姜は干していないので柔らかくて切りやすいな、とか考えながら作業をしました。生姜を縦に薄切りにしてから細切りにするのは、無心になれて本当に楽しいことです。

無心になっているつもりでも、根本的に無心にはなってはいない。将来の不安や奨学金をどう返済するか、この前海に行った時に元気な人間に囲まれて孤独を感じたこと、自分がいかに甘えているか、交際相手の今までの発言を反芻したり、数日前に初めて母親と交際相手と三人で昼食を食べた時のことを思い出したりして、死にたいと心から思いながら生姜を刻みました。生姜は繊維に沿って切るとすんなり切れました。楽しかったです。

生姜を酢に浸して冷蔵庫に入れ、寝ようと思った。本当に気が滅入っていて自力じゃとても眠れやしないなとおもったので、精神安定剤睡眠導入剤を1錠ずつ飲んで自分の部屋へ行った。様々なことに絶望しきっていたので、山田花子を読んで明日から頑張ろうと思って、開いていたのは山本直樹『フラグメンツ Ⅳ』でした。睡眠導入剤が効いてきて夢見心地で山本直樹を読み続けていた。

わたしはこの感覚が楽しくて仕方がなくやめられません。

バカで欲張りなので、もっとその感覚が味わいたく、あわよくばたくさん飲んで死のうと居間に行き何錠飲んだかは忘れたがしこたま飲み、自室へ戻りました。

もうだいぶふんわり気分なのでツイッターを開いても何にも読めず、でも楽しいので永遠に見てしまう。

何をおもったか酒が飲みたくなり、キッチンのシンクでジントニックを作りました。何故か二杯作って飲み比べしたくなったので、一杯には凍ったマンゴーやブラックベリーを氷代わりに入れて、一杯には凍ったゼリーを丸々一個浮かべました。果物は冷たくておいしく、ゼリーはまるくてかわいいなあと心から思いました。かき混ぜるとキラキラと光を反射するので楽しくて気がすむまでずっと混ぜました。本当に楽しかったです。

途中弟が居間に来て何してるの?と訪ねて来たらしいが呂律の回っていない返事をされたらしく、ジントニックという言葉だけ聞こえたから早く寝なと言って部屋に戻ったらしい。日付が変わるか変わらないかくらいの話と朝聞きました。

その後京都へ行く新幹線はどれをとっただとか、映画ウィッチを観たよなどと交際相手からラインが入っていたのだが、この前一緒に観ようって言ってただろうが嘘つきが!!!と内心キレて先に観るのずるくない?と返事を送りたかったけど、もう完璧にキマってたので「いままいってるのてで(*☻-☻*)まあしたさささささささはははは」「あしたにしてくまかあ」「ウィッチ先またのずるくないけさですかま」と連投してました。記憶にない。

これまで便宜的に自分の部屋と言っていましたが、うちには部屋がなく、自分の寝るスペースへ行くには母親の横を歩いていかないといけないので、ラリっているのがバレました。

酒を飲んでいるのか聞かれて呂律が回らないなりに飲んだと答えたらしい。ずっとしゃっくりをしていたそうだ。しゃっくりは恐らく副作用と思われます、精神安定剤睡眠導入剤が合わなかったり飲み過ぎたりしたときはしゃっくりがとまりません。記憶にない。

何度もトイレに行ったり、なぜか家族一人一人を叩き起こしてはスケジュールを聞いたりしたそうです。記憶にない。

 

実家暮らしではわたしがふんわり気分を味わっていることはすぐバレるので、両親から心配というか本気で怒られます。わたしは記憶にないので怒られても繰り返します。

睡眠導入剤精神安定剤がないと普段生活ができないので、もう無くなりそうだからそれだけでも不安なのだが、特に母親はわたしがそういうものを飲んだりそういう病院へ行くことをひどく嫌がります。もう何も考えたくないという感情が募っては爆発して、ふんわり気分になりたくて仕方がなくなります。そして決行する。

稀に薬と酒を飲まなくても現実と夢の判別がつかなくなる時がありますが、そういう時は山本直樹『世界最後の日々』を思い出して、今日で世界がメツボーする!と思ってめちゃめちゃやってやりたい衝動に駆られてどうしようもなくなるが、実際にそうしないのは現実と夢が感覚の底ではきちんと理解しているからだと思う。そう思うとなんだか虚しく、本当に全部がどうでもいいなあという投げやりな気持ちになりますね。