おまえどこ中?

最終学歴 オールフィクション

殺すぞ

 

掛け時計の規則正しい心拍。

か弱く高い電子機器の唸り声。

外は闇。

iPhoneTwitterのふぁぼ通知で突然光る。


現在、午後23時48分。
 
眠れますか
眠れません
 
連日のテスト勉強の睡眠不足と大会前の居残り練習のせいで、今日は家を出る前から疲れた気分だった。授業が終わって部活をし、脇目も振らず家に帰った。おなかは空いていたけれど、お母さんが作ってくれていた好物の親子丼も食べず帰宅早々ベッドに潜り、目を瞑った。
 
ベッドに入ってからどのくらいの時間が経ったのかはわからない。まだ5分も経っていない様な気もするし、5時間くらい経った気もする。
天井をぼんやり眺める。吸い込まれそうな曖昧な白。少しだけ開いたピンク色のカーテンの隙間から伸びる街灯の、細く頼りなさげな光が、薄暗いこの部屋を二分割している。こっち側とあっち側。私がいる方といない方。何が違うだろうか。わたしは、存在している意味・価値があるのだろうか。
 
眠れないのはなぜだろう。いや、本当はわかっている。部活の同期に、うまくいかなかったプレーについてなじられたから。授業で先生に当てられた問題がわからなくて、クラスメイトの前で恥をかいたから。制服のスカートがほつれていて見窄らしかったから。
ううん、違う。
わたしはちゃんとわかってるのに、理解したくないフリをしている。
 
人間は日々他人が発するさまざまな情報の中で呼吸をし、膨大なそれを無意識の内に取捨選択をする。意識と無意識。受け取った情報は脳で処理され、感情に変わる。時折、正しく取捨選択が出来ずに感じた全てを脳で処理してしまう人間がいるのだそうだ。酷く疲れる。何もしなくても、外へ出ていたり人に会ったり風に吹かれるだけで憔悴。外界から得るものすべてに傷ついて、一人で勝手に落ち込む。
 
時計を見る
午後23時59分。
 
…57 58 59
 
午前0時。
明日が今日になり、今日が昨日へ移動した。
実体は今日しかないのに、どうして未来や過去という概念が存在するんだろう。わたしはいつでも今日を生きることで精一杯なのに。未来を見据えて生きるのは苦しい、過去を抱いて生きるのも苦しい。必死で生きてて恥ずかしい。
 
理解したくなかったこと
それは好きな人について
 
好きな人、そういう単語でさえ気恥ずかしくって簡単に口には出せない。
恋愛をすること、他人に特別な感情をいだくことに対して、小さい頃から秘めなくてはいけないという強迫的な思想を持っていた。いとこの麻衣ちゃんは幼稚園の頃からいつも、麻衣ちゃんママと恋バナをしていたそうで、わたしの母親はそれを大層羨ましがっていたそうだ。でもわたしはしたくなかった。
 
いつだったかテレビの中の芸能人をかっこいいと一言言っただけで、母親は何故だか喜び、あの子はあの芸能人が好きみたいよ!と家族はおろか近所中に言いふらした。テレビにその芸能人が映ればホラ!出てるよ!としつこく言ってきた。冷やかしだ、と思ってひどく傷つき、同時に怒りが湧いてきた。そんな経験からか、容姿の良い異性をかっこいい、好きと素直に言えなくなった。
 
ずっと秘め続けてしまうから、相手にも伝わらず、わたしの恋は実ったことがない。
学校中から付き合ってるとか、夫婦漫才なんて言われるほど仲が良い好きな人。
でも、今日失恋しました。
 
他の学校に彼女が居たみたいで、わたしと違う制服を着たその子と楽しそうに帰っているところを偶然見かけてしまった。その瞬間わたしは心臓が石になる感覚を味わった。
 
仲がいいことと、恋仲になることは違う。
こんな当たり前のことをすっかり忘れていた。
 
誰にも言っていない気持ちだから、一人でなんとかしなきゃ。苦しい、切ない、悲しい。でもやり場がない。こんなことならクラスメイトに「実は〜」と軽めに切り出し、「あいつのこと好きなんだよね(笑)」って言えばよかった。学校中から付き合ってるって噂されていたこと、それがわたしの首を絞めた。奴も奴で満更でもない様子で「ちげーよ(笑)」なんて毎回言うから。いや、奴は何も悪くない。違うって否定してるんだから。勝手に妄想して勝手に盛り上がっていたのはわたしの方だ。失恋なんて言ったけど、なにも失ってなんかない。失うどころか、ただの迷子だ。
 
時計を見る
 
午前1時02分
 
考えたらキリがないので眠りたい。もう1時間経った。明日は朝練だけど、失恋したし休みたい。学校も、休みたい。あー、こんなことなら本当に好きって言いふらせばよかったな、みんなに。
 
Twitterを見よう。奴の過去のツイートやふぁぼ欄に女の影があるのではないか。気がつかなかっただけで、本当はインターネット恋人さり気にひけらかし人間だったのかもしれない。そしたらキッパリ諦めがつく。
 
iPhoneを手に持った瞬間に通知画面が光った。
keitaさんが写真を送信しました。
 
iPhone手にした瞬間にLINEきた、ということは運命かも?!いや、こういうところがわたしの一番キモいところだ。現実を正しく判断する力がなさすぎる。
 
keita
お前のこの顔まじサイコー😭(笑)
寝ようと思って携帯見たらこれ一番最初に出て来てもうw
一生笑い止まんねwww
 
自分の変顔に励まされるなんて思ってもみなかったな。
 
既読  ウルセー👏😂
既読  草生やすなw
 
これでいいんだ。