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おまえどこ中?

最終学歴 オールフィクション

毒殺準備

短編

あなたの苦手な朝、優しいキスで起こしてさしあげます。粘膜と粘膜の接触が、あなたを中毒にしても、わたしは一生やめません。

わたしはコーヒーを淹れます。朝食を作ります。お弁当を作ります。あなたはおいしいといって、すべて残さず食べるのです。あなたの体に流れる血液、あなたを象る肉体が、わたしの作った食べ物で構成されるのが堪らなくうれしいのです。わたしの作ったそれが、あなたの喉元を降りていく様を見ると、胸が苦しく、苦しくなるのです。あなたは、わたしが、愛という毒を盛っていることに気づくことはありません。

あなたがこれから着てゆくお洋服を、お手入れいたします。今日もスーツのジャケットに、わたしの香水を、一滴ずつ、袖口に落としてさしあげます。あなたは、いい女を見つけると、口元に手を添える癖がありますが、そんな女を見つけても、この香りがあなたを、許すことはいたしません。あなたを監視しております。

あなたの靴を磨きます。あなたは少しぼけたところがあるので、先方に頭をさげることもあると思うのです。その時、よく磨かれた靴を見て、わたしを思い出してください。わたしも一緒に頭をさげていることでしょう。

お仕事へゆくあなたを、お見送りいたします。今日も、あなたにとって素敵な日になりますように。あなたを悲しませる全てを、遠ざけたいのです。あなたを困らせる全てを、遠ざけたいのです。あなたが笑顔になることを1つでも、増やしたいのです。いってらっしゃい。あなたが靴を履いている間に、髪にキスを1つさしあげます。あなたは、この毎朝の呪いを知ることはありません。

わたしの愛が、あなたに一番効くのなら、毒薬と言われても構いません。中毒になりなさい。やんわり、ゆっくり、いつの間にか、あなたの身体や記憶に巡ってゆきます。やがて、わたし無しでは生きてゆけなくなってください。どうか、生命を終える最後の日まで、わたしの愛に蝕まれてください。今を生きるこの命は、終わって仕舞えばそれまでです。
さよならだけが、人生なのです。過ごした日々は記憶の隅に追いやられ、やがては忘れてゆくのです。
さよならだけが、人生なのです。重ねた身体の熱量は、いつか冷めてゆくのです。
さよならだけが人生ならば、流した涙も無意味です。
さよならだけが人生ですが、あなたはわたしの人生です。