読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

おまえどこ中?

最終学歴 オールフィクション

蓄光の星

「お邪魔します。」

今日、初めて上京してから自分の部屋に男の人を呼んだ。お母さん、わたしを不良娘って叱ってください。お付き合いしてない異性を自室に招いたの。どきどきしてる。だって、彼は片想いの相手だから。学生時代、異性に想いを寄せたことはあったけど、どれも成就せずに思い出のひとつとなってわたしの中で今もくすぶってる。だから、同じ会社、違う部署、でも同じフロアにいる、女性に人気者の彼の事は見ているだけで十分、それ以上は何も望んでいなかったのだけれど、たまたま自分の住んでいる駅でばったり出会って、話すようになって、今日。

 

「へ〜なんかかわいい部屋だね。」

あああそれってどういう意味なのかしら。年甲斐もなくぬいぐるみとか置いてあってピンクで統一してある部屋は、地味めで可愛くも美人でもないわたしに似つかずかわいいってこと?にこにこしてるけど、その笑顔とってもかわいいけど、わからない。でも、でもでもでも、かわいいっていってくれた。嬉しいかも。ううん、嬉しい。嬉しいわ。私の前を進む彼からほんのりだけど女性ものの香水、いい香り。優しい雰囲気のひと。

 

「手みやげにこれ、買ってきたんだ。どれがいいかわからなくて結構悩んじゃって。結局全部買っちゃった。それでちょっと遅れたんだ、ごめんね。甘いの好きって言ってたよね?」

待ち合わせの時間に全然来ないから心配しちゃった。でも来てくれて嬉しい。それに、甘いものがすきなんて、会社の飲み会でちょこっと言っただけでほとんど言ってないのに。しかも、ショートケーキに、いちごたくさんのタルト、タルトタタン、ミルクレープ、フルーツがはいったロールケーキ、モンブラン、紅茶のシフォンケーキ、ほかにもいっぱい。ありがとう……こんなにたくさん、高かったでしょうに。わたしのことを考えて買ってきてくれたのかしら。いま紅茶淹れるね。

 

「紅茶より珈琲がいいな〜。あと、隣座るね。煙草吸っていい?」

煙草は……んんん、ちょっと困るか……あ、もう吸っちゃってるいいのいいの気にしないで。シャツの袖口に血液かな?赤いものがついてる。早く落とさないとシミに成っちゃうわ。あとごめんなさい珈琲は苦手で置いてないの。でも今度買っておくから。わたし、隣に座った彼から逃げるように紅茶を淹れにキッチンに来ちゃった。可愛くない女、せっかく、隣に来てくれたのに……

 

「川上さんって、ウブでかわいいよね。俺そういう子とーっても好き。」

!!! びっくりした。耳許で彼の声が聞こえてくるんだもん。それにかわいいって。好きって。わたし、自分のこと、一度だってかわいいなんて思った事ないし、人からも言われた事ない。これからもずっとそうだと思ってたけど、思ってたのに、彼がわたしのことかわいいって。好きな人にかわいいっていわれたら、わたし、この瞬間だけは、世界で一番かわいい存在なのかもしれない。

 

「そんなに照れないでよ、こっちむいて」

まって、そんなに近づかないで。紅茶こぼれちゃうよ、なんて、わたし照れちゃう。お部屋に紅茶のいいかおり、キラキラの宝石みたいなケーキ、となりに彼。甘いムード。わたしの貧相な脳じゃ処理できないくらいにロマンチック。気づかないうちに陽が落ちてる。電気も、いつのまにか消えてる。いつのまにかわたしの腰に手が、まわってる。

 

「川上さん、俺のこと好きでしょ。」

彼、わたしの目をみつめてそんなこと訊くの。ずるい人。そんなの、言えるわけない。恥ずかしいもの。恥ずかしいけど、でも、いま言わなきゃ。わたし、あなたのこと、好きです。子どものころ、お父さんとお母さんとわたしで流星群を観たときの事思い出しちゃった。たくさんの眩い星。流れ星のシャワー。キラキラ光る夜空を親子三人で眺めた。お母さん、お父さんとつきあってた時、流星群を観に行った事があるって。お母さんはその時の話を嬉し恥ずかしそうに、子どものわたしにしてくれた。帰り道に、二人で流星群を観るような関係だったなら、半分くらい願いが叶っているようなものよ。あなたもそういう関係の人に出会えたら、お願いごとをくちにしてみて。きっと、パパとママのようになれるわ。お母さんは少女のように無邪気な笑顔で言った。

 

 「嬉しい。俺も。あ、今気づいたけど、この部屋天の川があるんだね。蓄光シール?賃貸なのにシール貼って大丈夫なの?」

まだどきどきしてる。自分の口から好きだなんて言う日がくるって思ってなかった。でも、彼、普通な調子。恥ずかしい。わたしもはやく普通にしなきゃ。ううん、違うの。天の川じゃないの。流星群なの。東京に来て少し経ってね、ホームシックになった時、子どもの頃を思い出して星を観ようと思って窓を開けたの。そしたら、隣のおうちの駐車場だったの。それにすごく落ちこんだけれど、お部屋に流星群を自分で作っちゃえばいいんだって思ったの。それで、インターネットで星のかたちの蓄光シールを買ったの。とっても気に入ってる。たぶんシールは貼ってはいけないと思うけれど、もしここを出る事があったらきちんと大家さんに謝るつもりよ。

 

「そうなんだ、川上さんは星が好きなんだね。気に入ってる所悪いけど、目つぶって」

 目?つむるの?うん。……なに、いまの。キス?……キス、よね?ファーストキスだわ。どうしましょう。ファーストキスはレモンじゃないのね。レモンなんて嘘じゃないの。

 

 「川上さん、俺の事すきだよね?いいよね?」

 うん、好き、好きよ。いいってなに?彼の顔が近い。近いよ。すこし怖い雰囲気の彼に肩を強めに押されてピンクのアイアンベッドに倒れる。あ、紅茶冷めちゃった、ケーキ冷蔵庫に入れなきゃ、わたし気づいたら彼の下。彼越しに蓄光の流星群。いつか、同じ方向を見て、肩を並べて流星群観ましょうね。でも、もしかしたら、この状態ももう願い事半分くらい叶ってるのかも。ぼんやり柔らかな、数時間前から蓄えた光を発する天井の星たち、どう思われますか?恋人じゃないけど、好きなひと、強引な逢瀬の最中に涙が出るのは幸せだからですか?終わったら、恋人に成りたいって、おねがいごと、いってみようかな。

 

「川上さん、俺」

シンデレラ、白雪姫、親指姫、ラプンツェル、いばら姫、眠り姫、わたしの憧れたお姫様たち。物語のそのあとは、幸せに暮らしていますか?白馬の王子様、実は浮気癖があるとか、DVするとか、娼婦といい仲になったり、寝言で毎回違う女の人の名前を口にしたり、仕事をしないで賭け事に熱中していたり、そんなこと、とても人には言えないから幸せに物語は終わっているのですか?だとしたらとても残酷だわ。軽蔑します。幼く無垢なお姫様たちは、運命の恋人と幸せになれるって信じているのに。わたしだって信じて居るのに。

 

「毎月の奨学金返済、キツいから月7万だけでいいから助けてよ。」

先にお願いごと言われちゃった。